ニュース・休日のヒント

リレーエッセイ〜看護のすきま〜【 vol.5 Нанаэ Яамамото】

「メディケアナース」は、看護師として働くひとの休日に“のんびり”を届けるウェブマガジンです。私達が考える“のんびり”とは「私を楽しみ、私と語らう時間」。連載企画「リレーエッセイ〜看護のすきま〜」は、看護師として働くひとによる“背伸びしない”エッセイ集です。人と人のすきまを紡ぐ看護師が「休日の私」をテーマにエッセイを綴ります。

vol.5 Нанаэ Яамамото

休日は台所に立っている。洗ったり、刻んだり、浸けたり、煮込んだり、揚げたり。無心に作る。

夫に言わせると、母とそっくりに見えるらしい。

父は大学で教えていたので、学生さんがしょっちゅう我が家にご飯を食べに来ていた。だから母がひたすら台所に立っていた記憶がある。父から電話が来ると、さて買い出し。肉まん、中華ちまき、いなり寿司、豆鯵の南蛮漬け、コールスローサラダ等々山のように作っていた。実習があるというと、5合炊きの炊飯器が早朝から2回3回スイッチが押され、おにぎりの山。

いつも、まるで食堂のおばちゃんよね。と笑いながら料理をしていた。そのほかに梅干しや白菜漬け、たくわんなどの漬物やジャムやケーキ、酒まんじゅうなど年中手を動かしていた。お菓子の類は、上手になるまで続き、いまや見るのもいやというものがある。

そんな母に育てられたから、短大時代に1人暮らしするまで全く料理をすることなく、ひたすら食べる人だった。

学食がなく節約のためにお弁当作りをするうちに、勉強と実習の息抜きが料理になった。

最初は、駅そばのスーパーで買い物していたが、同じ材料ばかりで飽きてきて、近くの八百屋さんに通うようになった。

今まで見たことのない野菜に出会い、どんどん料理にはまっていった。そのうち銭湯で出会う年配の方とも仲良くなり、量の多い野菜を半分分けしたり、料理方法を聞いたりするようになった。母とも料理の話で長電話もした記憶がある。  

そして結婚し看護師から離れ、様々な仕事をしながら料理してきた。

産休代替職員で事務仕事、塾、ファストフードでマネージャー。

書類が山積みで終わらなくても、お客様から怒鳴られても、息抜きは料理。作って、食べて、家族の笑顔が見られたらそれが最高のご褒美。毎日のお弁当、ごはん、おやつを母と同じようにせっせと作った。  

看護師に再トライしたのは、卒業から20年ほどあと。事務仕事の募集で行ったのは、重症心身障害者施設。面接で話しているうちに事務仕事からあっという間に、看護師で働くことと決まってしまった。

手も足も出せずうろうろする私は、毎日出される宿題と課題に押し潰されそうだった。利用者さんやその家族からの要求がわからなくて、また求められる技術ができず泣いた日もたくさんあった。それでも食べなくてはなにも出来ない。やはり料理に救われた。  

そこからなんとか看護師を続けている。料理をしながら、食べながら。  

歳をとって最後に作るものは、自分が食べるものかな。いや、自分で食べなくても、梅干しや果実酒を肴に話の輪に加わったり、思い出してもらうのもいいだろう。いつまでも、おいしくいただくことが望みだから、お口のケアはおこたらない。周りにも、勧めようと勉強もしている。  

さて、今日は買い物してから帰ろう。テレビによく出ているけど、おごることなく気さくな八百屋さん。

何があるかな。明日は何を作ろうかな。